●平成22年度から5大学で募集停止へ
私立の4年制大学に今、学生募集停止という“存亡の危機"が現実化し始めました。愛知新城大谷大(愛知県新城市)、三重中京大(三重県松阪市)、神戸ファッション造形大(兵庫県明石市)、聖トマス大(兵庫県尼崎市)、そしてLEC東京リーガルマインド大(本部:東京都、全国12キャンパス、以下「LEC東京」 と略)の5大学が、ついに平成22(2010)年度から学生募集を停止することになったのです。
この募集停止の第一波には「地方・新設・単科・小規模大学(入学定員200人以下)」 に加え、規制緩和(構造改革特区)により初めて誕生した「株式会社立大学」 が含まれています。加速する志願者減少や大学乱立で、一部の私立大はここ数年“志願者激減症候群"あるいは“定員崩壊症候群"に悩まされ、特に地方の小規模校では破綻寸前の兆候さえ側聞されていました。言うまでもなく、定員充足率の低下が経営基盤の弱体化を誘因していたからです。すでに短期大学では、平成7年(1995)度から進学者は減少(“短大離れ")に転じ、最近10年間で約170校もの短大が姿を消しています。そして4年制大学にも、この“西高東低型"に近い淘汰の嵐は襲いかかったのです。戦後の混乱期を除けば、大学が他校との合併以外て募集停止をしたケースはまれで、平成期に入っても平成16(2004)年に閉学した立志舘大/経営(広島県坂町)と、平成19 (2007)年度から募集停止をした東和大/工(福岡市)の2大学のみです。戦後60余年にわたって生き続けてきた“大学安泰論"は、平成20年台突入とともに終焉です。
● 募集停止校にも定員充足率11%〜78%の格差
最悪の学生募集停止に至った5大学の学生確保は、いったいどこまで追いつめられていたのか。ここでは、下表にまとめた平成21(2009)年度の定員・入学者数・定員充足率の最新データから、各大学の入学概況を確認してみることにします。
<大学・学部名> <定員> <入学者数> <充足率>
◆愛知新城大谷大/社会福祉 100人 13人 13%
◆三重中京大/現代法経 200人 155人 78%
◆神戸ファッション造形大/ファッション造形100人 35人 35%
◆聖トマス大/人間文化共生 250人 110人 44%
◆LEC大/総合キャリア 160人 18人 11%
表からも分かるように、いずれも定員充足率は低く、三重中京大を除く4大学では50%を切るきわめて危機的状況に見舞われたことが検証できます。しかも5大学ではここ数年、その減少傾向にほとんど歯止めがかからなかったのです。
ちなみに、受験生急増期の平成2(1990)年度を振り返りますと、三重中京大(当時松阪大)は志願者数で一般入試3,465人、推薦入試1,128人、計4,593人を集めています(政治経済学部定員300人)。また聖トマス大(当時英知大)も志願者数は一般入試1,870人、推薦入試481人、計2,351人を集めています(文学部定員260人)。この平成2年度と上表に示した21年度の数字は前者が志願者数、後者は入学者数と異なっていますが、両年度間の推移は一目瞭然です。
定員充足率百パーセントをクリアーしていた昔日の面影はまったく消え失せています。
● 「地方・新設・単科・小規模校」のカテゴリー
今回の募集停止5大学については、その所在地、設立年、学部構成、規模別から「地方・新設・単科・小規模」 といった部類のカテゴリー(範疇)に整理・統一できます。これは早稲田・慶応・同志社・関西学院等に代表される「都市・伝統・総合・大規模」 型大学の対極に位置します。
ここでは、5大学のカテゴリーを特化する「地方・新設・単科・小規模」 の4点のうち、やや変則的な「新設」 について補足説明をしておきます。例えば、聖トマス大(旧英知大)は昭和38(1963)年度に開設されていますので、通例では新設の部類には該当しません。しかし、同大学が平成19(2007)年に大学名改称、翌20(2008)年に学部改組等を実施した抜本的リニューアルに注目し、例外的な新設扱いとしました。また、三重中京大(旧松阪大)も昭和57(1982)年開設ですが、平成17(2005)年の大学名改称や学部改組から、これまた新設の部類に含めました。ちなみに、三重中京大は中京大(名古屋)と同一の梅村学園の設置大学です。
その他注目したいのは、愛知新城大谷大を除く4大学の学部がいずれも全国唯一の学部名称として登場した点です。現代法経(三重中京大)、ファッション造形(神戸ファッション造形大)、人間文化共生(聖トマス大)、総合キャリア(LEC大)などいずれも“オンリーワン"の学部名です。残念ながら、このユニークな学部名も数年後には消え去る運命にあります。
なお、このカテゴリーでは特に項目設定をしていませんが、学力担保選抜(一般入試)における「機能不全(低下)」が、5大学に共通して見られる点を指摘しておきます。
直近のデータによれば、平成20(2008)年度の全私立大に見る定員割れは過去最多の266校で、その割合は47.1%(短大は243校67.5%)となっています。さらに財政的にも37.1%の大学法人が、単年度の授業料等収入で経常的支出を賄えきれていません(日本私立学校振興・共済事業団調査)。これらの全国データから危惧される一つは、平成20年度の定員充足率50%未満の大学が前年度の17校から29校へと急増し、充足率低下に拍車がかかっていことです。しかも、その多くが募集停止予備群とされる「地方・新設・単科・小規模」校に顕著です。募集停止前兆のレッドゾーンは、まぎれもなく拡大しつつあります。
参考までに、学部別定員充足率を見ますとA大学B学部で定員40人に対して入学者10人、充足率25%、C大学D学部で定員60人に対して入学者9人、充足率15%(今年度から学部募集停止)、E大学F学部で定員70人に対して入学者19人、充足率27%、といった絶体絶命の窮地に立つ学部が続出しています。
● 中央教育審議会も「入学定員重点化支援」
以上、学生募集停止5大学を中心として大学入試の現状を見てきましたが、募集停止で懸念されるのは在籍学生への対応です。この点に関して、5大学とも1年生が卒業する平成12(2014)年度までは責任を果たし、少なくとも大学運営を継続することを約束しています。しかし、再受験のために退学を決定している学生も少なくないようです。大学淘汰が始まったの今、在籍学生の取り扱いを含め大学設置基準等の見直しは喫緊の課題です。
参考までに、解説の後に<資料A><資料B><資料C>を掲げてあります。<資料A>は聖トマス大学の「学生募集停止に関する」 学長声明で、大学設立当初の夢と挑戦が語られ、さらに大学名改称や学部再生と前後して始まった志願者離れの経過や苦悩が吐露されています。
<資料B>は5大学の平成20(2008)年度入試の概況ですが、募集停止の前兆は明々白々です。入学者の大幅な定員割れのほか、特に一般(学力)入試に見られる選抜機能の低下や推薦入試偏重の実態について確認してみてください。すでに5大学にはレッドシグナルが点滅していたのです。受験にあたっては、まず的確な情報を入手し、分析することです。
<資料C>は受験情報誌等(蛍雪時代『受験年鑑』)に入試データ(募集・志願・受験・合格・入学等)を非公表としている大学例です。入試の情報公開・説明責任は大学にも義務づけられていますが、データの非公表校は年々増加しています。多くは定員割れの実態を封印しているものと推測されます。
募集停止の問題とも関連して注目したいのは、最近の中央教育審議会の動きです。同審議会の大学分科会では『中長期的な大学教育の在り方に関する第一次報告』を発表(6月15日)しましたが、その中に「人口減少期における我が国の大学の全体像」 が盛り込まれています。そこでは◆定員調整に向けた取り組み、◆計画的な定員調整、◆入学定員重点化に対する支援(厳しい状況にある学部等を募集停止する場合の財政支援)、◆定員割れをしている学部等の設置認可の厳格化、などが検討課題とされています。いずれも「大学の適正規模の観点からの自主的な組織の見直し支援」 と 「大学の健全な発展のための収容定員の適正化」 を目指しているようですが、今後の具体策が待たれるところです。
規制緩和による大学受験・進学の“陰と負"については抜本的見直しが期待されます。
● 母校が“墓校"にならないための志望校選定を
志願者減少と学生募集停止等による大学破綻は、今後さらに拡大することが予測されます。入試データを総合的に分析してみますと、少なくとも40近い大学が淘汰への“リスク症候群"を露呈しています。特に懸念されるのは、選抜機能を失っている「学力選抜力」の弱い低ランク校で、中には募集人員30人に対し、志願者が1人といったのケースも見られます。
教育の「特急20世紀号は脱線した」 とは、『STUDY TECHNOLOGY』 で世界的に知られる教育者、ロン・ハバード(アメリカ、1911〜1986)の有名な言葉です。彼は「教育とは文明の知識を一つの世代から次の世代へと伝える役目を担った機関車」 になぞらえました。
しかし、「不幸なことに、その列車を運転する人々が点轍機を間違えた結果、特急20世紀号は脱線した」と、20世紀の教育を慨嘆しました。最近のわが国の歪曲化された大学受験・入試を考えるとき、私は進学転轍機の誤作動が社会全体を含め、特に大学や受験サイドにあるように思えてなりません。まさに今回の募集停止は「受験進学平成号の脱線」と言っても過言ではありません。ロン・ハバードの言葉を改めて噛み締めている昨今ですが、受験生には21世紀の知識基盤社会に生きるための転轍機操作を誤らないでほしいものです。
安易な選択による進学校が、ゆめゆめ“墓校"にならないことをせつに祈ります。
■資料A 聖トマス大学(旧/英知大学)学生募集停止のお知らせ
聖トマス大学(大学院含む)は、 2010年度からが学生募集を停止することにいたしました。 聖トマス大学は、「真理にいたる英知の力をそなえ、自立した人間を養成する」 ため、1962年に英知短期大学宗教科を創立し、翌1963年に英知大学神学部が創立されました。翌1964年には文学部を開設し、1996年に大学院人文科学研究科を新設、2007年には聖トマス大学国際協議会に加盟し、世界の聖トマス大学との国際交流推進を図るため、大学名称を聖トマス大学と変更し、また、2008年には文学部を人間文化共生学部に改組することでさらなる発展を期待し、短期大学時代(1974年まで)を含め約1万名の卒業者を社会に送り出しつつ、いっそう社会から必要とされる大学となれるよう努力してまいりました。
しかしながら、日本における少子化の進行等の影響を受けて入学志願者が年々減少し、特に近年は急激であり、大学をめぐる教育環境が非常に厳しくなってまいりました。
聖トマス大学は、健全な学校運営を維持するために全学あげてさまざまな施策を講じ努力をしてまいりましたが、このように厳しい環境に打ち勝つことができず、入学する学生数の激減と昨今の経済不況の直撃によって、将来にわたって教育研究を維持することが困難になってしまいました。このような決定に至りましたことを深くおわび申し上げます。
今後は、より良い教育環境を在学生に提供することを最優先に取り組み、就職支援につきましてはこれまで以上に万全を期して取り組んでまいります。
在学生・卒業生・保護者の皆様、学校関係者ならびに地域の皆様のご厚情にお礼申し上げるとともに、学生募集停止に至りました事情をご賢察いただき、今後のご協力とご鞭撻を心よりお願い申し上げます。
2008年6月 聖トマス大学 学長 小田武彦
■資料B 5大学に見る平成20年度入試の概況←クリック
■資料C 志願者数等入試データ非公表の私立大学(平成20年度蛍雪時代/『受験年鑑』)
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